メニュー表示
こちら知事室です
×
こちら知事室です こちら知事室です

平成30年3月
 
虹の松原学園100周年記念誌への祝辞
『一人ひとりの春を願って』

 3月の終わり頃、春を告げる花の一つに、「カタクリ」という花があります。
 暖かな土地ではあまり見られないこの花は、おもに雪国で育ち、紅紫色の小さな羽を広げたような姿から「春の妖精」とも呼ばれています。
 開花までに長い歳月を要し、1年目に芽を出した後は、毎年葉を1枚だけ出し、7年目にようやく2枚の葉を出して花を咲かせます。
 寒さや雪の重みに耐えながら、その根に栄養をためて春を待つカタクリは、今年のような大雪の後には、堅い残雪を突き破って萌え出るのだそうです。
 ――どんなに長く厳しい冬にも、必ず春は訪れるのです。

 このたび、虹の松原学園が創立100周年を迎えました。
 1年365日、1日24時間、子どもたちとともに懸命に歩んできた日々が、100年という時を積み重ねてきたことに、深い感慨を覚えます。
 この学園は、地域の方々のご支援を賜りながら、職員の皆さんが子どもたちと一緒に汗をかき、笑い、悩み、ともに生きる精神で運営されてきました。
 これまで、支えていただいた関係者の方々の温かいご支援とご協力に対して、心から感謝申し上げます。

 昭和24年、学園名の由来ともなった当地への移転に際しては、地元砂子地区の方々のご理解と多大なるご協力があったと伺っております。
 また、昨年で60回を迎えた砂子地区との合同運動会、餅つきやしめ縄づくりなどの恒例行事、農作業などを通して、地域の方々に温かく受け入れていただいたことで、子どもたちにとって学園は故郷のような場所となっています。

 園を離れた後は、温かい家庭を築きご自身の子どもを育てている方、教師という職業を選び子どもと真摯に向き合っている方、一度失敗した子どもたちを温かく受け入れるような場を作っている方もいらっしゃるとお聞きしています。
 なかには、時折「先生、元気にしているね」と懐かしく連絡してくる方もおられるようで、学園生活で築いた温かな関係を大切に思っていただいていることをとても嬉しく感じます。

 毎年、様々な困難や辛い気持ちを抱えた子どもたちが、この学園の門をくぐります。大人を信じ、受け入れ、仲間たちと喜びを分かち合うようになるまでの道のりは、決して平坦なものではないでしょう。
 それでも、学園の生活を通して、本気で叱ってくれたこと、正面から向き合ってくれたこと、自分のことのように涙を流して喜んでくれたこと、そうした大人たちとの深い絆によって育まれた心の強さは、厳しい社会で自らが芽を出し花を咲かせる力となっているのではないかと思います。

 近年、貧困や児童虐待などが増加し、子どもを取り巻く環境は厳しい状況にありますが、すべての子どもたちが健やかに成長し、生きる力や夢を育むことのできる社会を目指して、私も、皆様とともに力を尽くしてまいります。

 この学園から巣立っていくすべての子どもたちが、自信と希望をもってそれぞれの道を歩み、いつか一人ひとりの個性豊かな花を咲かせることを心から願って結びの言葉といたします。