記者会見

●発表項目:城原川の河川整備について
 それでは城原川の河川整備について発表させていただきます。
 まずアウトラインです。城原川における河川整備の手法については、「流水型ダム」とでも言うべき方法をとっていただくよう、河川管理者である国に申し入れることにしました。
 この「流水型ダム」は、洪水の時以外はダムがない状態と同じように上流の土砂や水が下流に流れ、洪水のときだけ水を溜めるというものです。
 一般に私たちがダムと聞いてイメージするのは、「貯留型ダム」だと思います。これは洪水の時だけではなくて、いつもダム湖に水を溜めておいて、干ばつ期でも流れる量をコンスタントに維持できるようにするものです。逆に、いつも水が溜まっているというものであります。
 それに対して、国土交通省から提案のあった「洪水調節専用ダム」は、いわゆる穴あきダムです。この方法によれば、いつも水が流れる状態ではあるものの、土砂が流れないということになってしまいます。下流に、いわば生きた水を届けるという意味では、「貯留型ダム」よりはこの穴あきダムの方が優れていますが、土砂は流れていかないという点においては、有明海の環境への影響の可能性を否定できません。
 今回私どもが提案する「流水型ダム」は、堰堤の一番下に放流口をつくります。川底に近いところから流していくというものです。そうすることによって、ダム湖に水が溜まったり、土砂が堆積することを最小限に抑えることができます。
 これまでダム案に対して指摘されていた、「土砂が埋まってしまって海に流れない。そうすることによって、有明海の環境を変化させるのではないか。」という不安に対しては、いや、土砂はきちんと流れ下りますと答えることができます。「水質が変化してしまうのではないか。」という指摘に対しても、基本的には水が流れていますから、水質の変化も避けられるということになります。
 このような意味で、私どもが今回提案する「流水型ダム」は、従来型のダムに対する批判に応えるものであり、環境と治水の両面を両立させることのできる新しい提案だと考えています。
 しかしながら、これに対してはいろいろな問題点もあります。同じような型のダムとして、熊本県の立野ダムや兵庫県の武庫川ダムなど、幾つかの先例に近いものがありますが、これらのダムは、城原川に設置するものよりも放流量がはるかに大きなダムです。例えば、立野ダムの放流量は毎秒2,200立法メートルで、この場合、放流口の大きさは5メートル×5メートル、そしてそれが3門設置されることになっています。しかしながら、城原川ダムからの放流量は、毎秒230立法メートルしかありません。いわば立野ダムの放流量の10分の1しかないということになり、立野ダムに比べて放流口はどうしても小さなものにならざるを得ません。そうなっていきますと、大きな岩が放流口をふさいでしまうのではないかという危険性があります。こういう問題に対してどうしていくのか、技術的な検討が必要になってまいります。
 私たちは、それに対しては、例えば、手前に岩を防ぐ転石対策施設を造ったらよいのではないかと考えています。こうしたことを初め、その他技術的な検討が必要になると国から伺っておりますけれども、そこは無尽の英知を結集して努力していただきたいと考えますし、他のダムでも検討や事業化が行われているとも伺っておりますので、私どもはこれから知恵を絞れば、対応できない話ではないと考えています。
 これが私どもが考える佐賀県としての提案の概要です。

 次に、これまでの経緯を振り返らせていただきます。
 城原川の整備については、一昨年の4月に、私が佐賀県知事に就任してから3か月後の7月に国から提出されました「城原川について」という資料のチェックから始めました。その後、この城原川の問題をより多くの専門家、また、流域に住んでおられる住民の中での賛成、反対、それぞれの代表の方々の議論を参考にさせていただきたいということで、城原川流域委員会を設置し議論していただきました。
 城原川流域委員会は、賛成、反対、いろんな御意見をお持ちの方を公募して、すべてオープンな形でやったという意味において、画期的なものであったと考えています。1年間で13回開催されたこの流域委員会においては、毎回予定時間を大幅に超える活発な議論が交わされました。最終的に、城原川は安全な川ではなく、何らかの治水対策が必要であるということ、また、治水対策としてダムは有効、というまとめを去年の11月にいただきました。私はこの提案を受けまして、自分なりに考え、自分なりに目を通しました。確かにダムについてはさまざまな議論がなされ、深められていると感じましたが、一方で、ダムによらない案については議論が不足していると感じました。
 私は、ダムによる案というのは、ダムによらない案が実現できない、さらに、ダムを容認するという社会的な合意が背景にあって初めて取られる、いわば最後の選択肢であろうと思います。また、急いで決めないでほしいという神埼町、千代田町の両町長からのお話もあり、できるだけ早い解決を望んでおられる脊振村の村長さんを御説得いただき、最後の議論の舞台として、城原川首長会議を設置することとしました。
 今回の首長会議は、平成16年の12月8日から平成17年の5月30日までの合計11回の会議を開催し、その結果、幾つかの到達点に達しました。
 まず、第1点目は、治水対策の目標である基本高水のピーク流量を毎秒690立法メートルにすることについてです。これについては、首長会議で繰り返し議論をいたしました。過去のデータの見直し、確認作業なども行いまして、新しい事実の発見や検証による確認作業が行われました。その結果、城原川で百年に一度相当の洪水に対応できる川にするという意味を持つ、毎秒690立法メートルの基本高水のピーク流量ということについては、城原川首長会議のメンバーである市長、町長の間で確認されました。
また、現行の河川整備の目標に照らして、現在、城原川の河道の整備が大変遅れているという指摘がございました。これは、今の城原川の川の流れ方を見ていると、草が茂ったり、思うように水が流れていかないという指摘であります。こうしたものを早急に改善してほしい、そういう話もございました。また、通称かみそり堤防と呼ばれているような非常に堤防の厚さの薄い箇所があります。こうした箇所については、住民の不安が非常に大きいということで強化をしていただきたい。この三つの点が首長会に共通する意見、認識であったと思います。このことは、先日の首長会議でも確認させていただきました。
 そういう中で、堤防の強化とあわせて河道改修については本来予定している毎秒330立法メートルまできちんと整備をするということ、あわせて堤防整備も行うこと、この二つはそのほかの治水対策を考える上でも前提でありますが、この毎秒330立法メートルの河道改修を早急に行ってほしいという強い意見がありました。
そういう中で、基本高水ピーク流量、毎秒690立法メートルに対して河道整備を毎秒330立法メートルでやるとした場合、残りの毎秒360立法メートル分をどう処理していくかということについて、ダムによらない案を主軸として幾つか検討を進めることになりました。
この三つの共通認識のほか、これもまた、全構成メンバーの共通認識であると思っておりますが、どういう治水対策をとるにせよ、いずれかの地域の住民の方々には御理解をお願いし、ある意味、御迷惑をおかけするほかないということがあります。遊水地をつくろうとすれば、遊水地の近くの住民には御迷惑をおかけします。引堤をやろうとすると、その引堤の対象となっている地域の方々にも御迷惑をおかけします。引堤案であるにせよ、遊水地案にするにせよ、はたまたダム案によるにせよ、どこかの地域の住民の方々には御協力をお願いをせざるを得ず、さらに言えば、そういう御迷惑をおかけすることによって初めて安全な川というものが実現されるんだということについて、これまた共通認識となったと考えておりまして、これは大きな結果と言えるのではないかと考えています。
 ダムによらない案については、これまでも明らかにしてまいりましたとおり、五つの案を検討いたしました。遊水地、河道改修、引堤、堤防嵩上げ、そしてその組み合わせ案を設定し、議論をいたしました。結果から申し上げますと、前回の城原川首長会議の中でもありましたように、特に関係の深い神埼町、千代田町の両町長が容認できるとされた案はありませんでした。
 また、一方で新しい考え方として、洪水リスクを地域の住民の方々に受忍していただくということができないだろうかという点については、私自身もこれは一つの魅力のある提案と理解をして検討を進めてまいりました。しかしながら、想定をすべき雨の状況では、被害が短時間で済む床下浸水程度のものでとどめられるものではなく、どうしても床上浸水以上の被害が想定されてしまうということもあり、地域の方々の御理解を得ることは大変難しいと私は判断いたしました。
 洪水保険といったものが考えられないかという指摘もございましたが、現実的に限られた時間のうちにこの制度が創設されるということを前提とする判断は難しいと考えました。地域住民がリスクを受忍するという考え方そのものは、我が国における伝統的な治水の手法でもありますし、野越しという形で今もなお残っているものでもあります。また、新しい方向性としては、今日的な可能性としても意義のあるものだと私は思っております。
しかしながら、城原川に関して言えば、前提とすべき雨の量、形、城原川の特性や現在の社会環境を考えますと、実際に適用することは難しいと言わざるを得ず、私としてもその点は残念であります。
 地域住民がリスクを受忍するという考え方や、洪水保険制度については、城原川においては適用し得ないものの、ほかの地域においては考えられないのか、国の当局においても検討を進められるよう期待したいと思います。
 一方、ダム案については、国の方で新しい提案がありました。それまでダムにより、確保することが可能な不特定容量として、約790万立法メートルとしていたものを想定していましたが、下流域での水利用を想定して、それが約200万立法メートルになるという前提で、いわゆる貯留型のダムの説明がございました。
 また、その際、貯留型ではない洪水調節専用ダム、いわゆる穴あきダムについても併せて説明が行われ、首長会議では、ダムによらない五つの案と、河川管理者から提案のあったダムによる二つの案、合計七つの案についてさらに検討が行われました。
 これらの七つの案を、コストの面から比べてみますと、洪水調節専用のダムは、河道改修を含めまして、約760億円となります。大幅に引堤を行う案が約1,600億円となりまして、洪水調節専用ダムが一番低く、大幅な引堤が一番高いということになっております。
 また、事業期間についても、ダム案であれば約20年程度ということになります。ダムによらない案については、あくまでも一定の仮定のもとでの算出ではありますが、約85年から100年程度かかるという説明がありました。ダムであれば集中的に予算が確保されますので、比較的短い期間で事業が完成しますが、ダムによらない案の場合には、予算確保が難しいという現在の予算の硬直した配分の象徴とも言えるのかもしれませんが、問題は感じますものの、現実的な解決ということを考えると、ダムによらない案の場合には、非常に長い時間がかかってしまうと感じました。
 また、これとは全く別の視点で、環境や水質に与える影響という問題についても、この会議では指摘がございました。
 ダムが建設されるとなりますと、水没予定地はもちろんでありますが、ダム直下の住民の方々には、生活面での影響や景観的な、または心理的な面でも大きな影響があります。
 また、従来型のダムの手法によれば、土砂が有明海に今までのようには流れていかない。水質も変わってしまうというような指摘もなされていました。
 こういう状況の中で、私は佐賀県知事として、一つの案に絞ることが求められました。大変難しいところではありましたが、私は、きちんと住民の方々に安心して暮らしていただくことを比較的短い期間のうちに実現するためには、ダムの手法によらざるを得ないと判断いたしました。しかしながら、水質や有明海の環境に対する影響も考えますと、従来の貯留型の溜めてしまうダムではなく、環境と共生できる新しい形のダムが必要ではないかと考えました。
 今回、私どもが提案しております流水型ダムというのは、土砂が下流に流れていき、水も下流に流れていきます。土砂も流れ、水も流れる。洪水時は、ダムのところできちんと受けとめて、川が氾濫する危険性が今よりも低くなる。それを比較的短時間のうちに実現することができる。そういう案であると私は考えます。城原川に設置する規模のダムにおいては、こういう流水型ダムは他にはないと伺っておりますけれども、河川管理者におかれましては、ぜひとも技術的な検討を進めていただいて、環境と安心が両立する、いわば未来型のダムの実現を図っていただくようお願い申し上げる次第であります。
 なお、城原川についての議論の中で不特定用水の問題については、首長会議の中においても結論を出すことができませんでした。特に、下流の方で、現在の水量の少なさについては、しばしば指摘がなされているところであります。
 これらについては、水利用をされている関係者の間できちんとした調整がなされることがまず必要であると考えます。
 しかしながら、限られた時間の中で、ここまで意見の調整をすることができませんでしたので、この不特定用水を確保すべきか、確保すべきとすれば、どの程度の容量が必要なのかといった問題については、今後具体的にダムの問題を詰めていく中で、併せて検討していただくことを期待したいと思います。
 ただ、その場合にあっても、あくまでも今回、私どもが提案している「流水型ダム」は、「環境保全を前提としたダム」という考え方を基本としており、そのような考え方のもとで、不特定として必要な水量を確保することが可能かどうか検討をお願いしたいということであります。
 私がこの問題を担当することになり約2年、特に、水没予定地の脊振村の方々には、何度にもわたって結論がまだ決まらないという形で御迷惑をおかけしたことに対しまして、心からおわびを申し上げたいと思います。
 さらには、この案を国に対して提案するということを決断した今、これから本日の決断に対する御理解を脊振村の方々にお願いをしなければなりません。
 どうか中流、下流の方々におかれましても、城原川流域で安心して生活を営んでいただくためには、脊振村の方々や、景観などが大きく変わるダム直下の方々の御理解と御協力がどうしても必要になるということを、この際、御認識いただければありがたく存じます。
 私からは以上であります。


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